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JDL Avenue vol.29 2001年9月掲載
経理実践トレーニング
経営計画編 vol.18

無借金経営への道程 18


大きな痛みを伴う構造改革
 日本の企業は戦後50年間、過小資本経営が当然とされ、借入金過多になっていた。それが、バブル経済の崩壊と同時に価値観が180度方向転換し、全産業において自己資本の充実に重点が置かれるようになった。
今の不況は大小を問わずすべての企業が必死になって借入金の返済をしていることに大きな要因がある。社会全体でこの返済が進むか、価値観の修正が行われ借入金依存の経営体質が容認されない限り、中小企業の経営状況は悪化の一途を辿る。
 しかし、各種の法律の改正を見ると、間接金融から直接金融へという大きな流れが存在し、1,400兆円余の金融資産の多くが預貯金にあるのを、株式に向かわせようとしていることは明らかである。となれば、借入金依存体質が容認される社会の再来は無いと考える方が賢明である。
今行われようとしている構造改革は「痛みを伴う」と明言されており、その痛みは弱い者にしわ寄せが行くようなものであってはならないが、企業の倒産とそれに伴う失業者が激増することは避けて通れないだろう。ここで忘れてならないのは、倒産企業の従業員は失業保険で一時を凌ぐことが出来るが、中小企業経営者は「個人保証」の名の下に無限責任を負わされ、失業保険の給付も受けられずに路頭に迷うという事実である。


更に進む金融機関の淘汰と貸付先の選別
 金融機関の「健全性」を重視する政策の下に、すでに、ここ数年間に全国の銀行・信用金庫等で事業譲渡の形式による統廃合が行われてきた。

 今後、不良債権の最終処理を進める過程で、最終処理出来るだけの体力を持ち合わせていない金融機関は必然的に淘汰されてしまうだろう。処理出来るだけの体力のある金融機関は、[健全性]をアピールするために債権譲渡・法的整理等の最終処理を積極的に進めていく事が予想される。

そうなるとますます「正常先」または「優良債権」以外は切り捨てられる可能性が高くなり、以前にもまして中小企業の金融環境は悪化することが確実である。(*注1)

銀行は企業をどう見ているか

 以下、具体的な事例で解説する。
 埼玉県のO信金が自力による経営再建が困難となったことにより、事業譲渡という形式で統合され「正常先」と「優良債権」はS信金に引き継がれ、不良債権はRCC(債権回収機構)に移管されたのだが、取引がO信金からS信金へ移管された企業(以下C社)だからといっても安心してはいられなかった。
 このようなケースでO信金に手形の割引をしてもらっていたC社がS信金に引き続き同じ条件で割引を受けられることを期待してはいけない。
 S信金はC社を新規取引先として与信調査をし、それでOKとなったら改めて割引の枠を設定すると考えておかなければならない。
改めて新規の取引先を選別するときに金融機関はどの様に見ているかを知らなければ、適切な対処は出来ない。
 まず第一に「正常先」であれば割引に持ち込む手形の銘柄が重要な要素となる、その場合でも月次の試算表などでしっかりと利益が出ているか否かをチェックされるだろう。仮にA社が「要注意先」以下であれば新規の借入や割引は困難を極めると考えなければならない。


 C社は2年続きの赤字で、元は1億強あった自己資本が6千万円程度になり、資産の含み損を考慮すると辛うじて債務超過を免れている状態である。


 C社の1年間に返済する金額(5,500万円)が税引後利益(2,977万円)+減価償却費(2,000万円)、いわゆる狭義のキャッシュフローを上回っているので、当然この1年間で資金は不足して来たはずである。仮に他の要素を加味し、今年は営業キャッシュフロー(例えば売掛金の早期回収・買掛金の支払い延期・在庫の圧縮等)・投資キャッシュフロー(資産の売却等)又は借入金以外の財務キャッシュフロー(増資等)で返済額を上回るくらい確保できたにしても、毎年それを維持するのは困難を極める。  C社の翌期の見通しは、当期と大幅に変わることがないので、このまま返済を続ければ当然再び資金は不足してくる。不足分を補うには、新たに借入をするか、借入が出来なければ、発想を転換し、いくらなら返済できるかを計算し金融機関に返せるだけ返す様にする。その旨を提示するのが、中小企業にとって出来る唯一のことになる。それが出来なければ、利益が出ていても資金不足により倒産することになる。
 しかしそこで困るのは、たとえ利益の出ている決算をしていても、約定の変更を申し入れればそれだけでランクは下がり「正常先」からははずされ、「要注意先」に格下げされることだ。が当分の間、新たな借金は一切しないと決心すればこれも可能な手段となる。
但し、以前にも書いたようにこの方法は一歩間違えると命取りになるので、決して安易な素人判断をせず専門家に相談しながらやっていただきたい。(*注2)

是非必要なセイフティーネット

 この激変の時代には、変化に対応できなければ淘汰されても仕方がない。自助と自立は我々庶民に課された永遠の課題である。我々凡人はつい楽をしたがるが、理性的に考えれば怠け者が居づらい社会は良い社会だといえる。
 しかし、真面目に働きどんなに努力しても失敗することはある、失敗すればそこには「個人保証」という名の無限責任が待っている。そんな事態を招かないように、金融機関の実体を公表し、評価することで、円滑な資金需給を図り、利用者の利便性を高め、その結果中小企業金融のセイフティーネットとして働く「金融アセスメント法」(*注3)が必要である。既に金融アセスメント法の制定に向けて全国で署名運動が展開されている。日頃から中小企業と共に生きている者として是非成立させたい制度なので、どこかでこの話が出たら是非ご協力をお願いしたい。


*注1.「優良債権」「正常先」等の内容に関する「債権の五段階区分と資産算定の四分類」については 「宮本孝の金融教室」 に詳しい解説があるのでそちらを参照してほしい。

*注2.リスケジュールのプロとして著名なコンサルタント
宮本孝氏 (株)日本ビジネスクラブ代表取締役・中小企業診断士
п@03-5473-7088
大場裕氏 フリーダムコンサルティング代表・中小企業診断士
http://www.hat.hi-ho.ne.jp/freedom-consul/
     freedom-consul@hat.hi-ho.ne.jp

*注3.金融アセスメント法の詳細は 「金融アセスメント法特集」を参照されたい。




中央会計事務所
税理士 細野知久
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