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JDL Avenue vol.30 2001年11月掲載
経理実践トレーニング
経営計画編 vol.19

無借金経営への道程 19


時代は依存から自立(自律)へ

 不良債権の最終処理を伴う経済構造改革で、中小企業が淘汰される側にならないためには、永年にわたって身に染みついた依存体質から脱却する必要がある。依存していた対象は@銀行A親会社B政府などという企業の外部要因がほとんどである。
 日本経済全体の方向は借入金依存体質からの脱却を強制している。とりわけ銀行への依存体質からどうやって脱却するかが重要な問題である。
 今までの常識的な発想なら、その為の最上の方法は企業は利益を出し、税金を払った残りを留保し、自己資本を充実させることだった。しかし、その手法の最大の欠点は、利益の約半分が税金で流出してしまうことである。内部留保が充実するのを待って事業を展開していたらチャンスを逸してしまう。となれば、やはり借入金をゼロにすることは出来ない。適正な額の借入金はどうしても必要だということになる。以前にもこの欄で紹介したように、「無借金経営」とは借金ゼロの状態だけを言うのではない。誤解を恐れずに言えば、「いつでも会社を閉められる状態」ならそれは「無借金経営」である。


会社は誰のものか

 現在、中小企業の多くは経営者が全責任を負って決断に当たれるオーナー経営の手法を取っている。しかし、そのことが最大のメリットだった時代は終わりを告げ、今はマイナスに働いている。
 中小企業におけるオーナー経営の最大の特徴は「個人保証」である。
 オーナー経営者が、銀行に対して個人保証をし、生命と全財産を担保に入れて、「所有」しているものは何なのか?もう一度考えてみよう。それが最終的に「お金」ではあまりにも寂しいのではないか。お金は持つことに意味があるのではなく有意義に使うことに重要な意味がある。然るに借金体質が残っている限り、企業の財産とオーナーの個人財産が密接不可分となり、「相続税」を考えるとそのお金すらが使えないのである。
 企業において相続すべきは、金銭的な意味での財産ではなく、次の世代に伝えるべき「生き方」や「商道」という無形の財産である。理屈ではそんなことはとっくに分かっていても出来ないのが現実である。
 「個人保証」がオーナー経営型企業が後継者難に陥っている理由の大きな要因にもなっている所以である。仮に、事業の後継候補者が親族でない場合に、その社員が現社長の背負っている「個人保証」をそのまま継承することが出来るか否かを考えれば答えは明白である。
 「個人保証」の必要ない経営形態を構築しなければ、日本の中小企業は永久に「相続税」と「後継者難」に苦しむだろう。
 個人保証の必要のない経営形態を実現するための難関は、「会社は私の財産」というオーナー経営者の所有意識にもある。
 倒産してもおかしくないような債務超過の企業の経営者に
「この会社は誰のものですか?」と尋ねれば、
「もちろん、株主である私の会社です」という答えが返ってくる。それに対して、
「いいえ、今の状態では債務超過で、あなたの取り分はありません。この会社は債権者のものです。もちろん、担保に入れたご自宅も同様です」といっても釈然としない顔をしている。
 本来、株式会社は出資をする「株主」が株主総会で経営を「取締役」に委託することが前提となっている仕組みである。
 ところが中小企業の多くはオーナー経営者が株主・取締役(経営者)・製造の責任者・販売の責任者のすべてを兼任していることが多い。そのことが経営者のわがままを許し、自己チェック機能(自律)を働かなくして、ものを見る目を曇らせている。
 株主(オーナー)の立場で見れば簡単に分かることさえ、分からなくしてしまっている。


赤字でも成長する会社

 経営者の「所有」感覚が変われば赤字経営でも会社を成長させることが出来る事例がある。
 筆者が常日頃提唱している「利益は社会貢献のバロメータ」に対するアンチテーゼとして、利益を残さず社員に分配してしまってなおかつ成長している、異能の経営をしている会社をご紹介する。
 既に日経産業新聞の平成13年6月12日の「異相の会社」などで紹介されているのでご存じの方もいると思うが、メガネチェーンの21(トゥーワン)がその会社である。
 常識から大きくかけ離れたこのような会社が、何故活躍しているのかを考えてみよう。
 同社の特徴を箇条書きすると
@株主は全て社員
A給与はすべて公開
B社員の評価も公開
C業績など経営内容も公開
などと情報開示が徹底している。
 同社は会社の財務諸表上の利益は赤字である、しかし、社員には充分な給与と、賞与を支払っている。このようにすれば、現行の税制で会社が負担する法人税等の課税はゼロに近くなる。しかし、このように儲けを分配するだけなら、世の中には「フルコミッション」という制度が既にある。コミッションセールスの弊害はダイヤモンドや健康食品などを始め多くの事例でご存じの通りである。
 経営理念がしっかりしていなければ、単なる金の亡者の集団になってしまう。
 従来、中小企業経営に税理士・会計士が指導していた手法に「オーナー経営者個人と法人の税負担合計額を最小限にする」というものがあった。その上で、オーナー経営者が万一に備えて給料の一部を貯金しておき、会社が資金難に陥ったら貸し付けることで、企業の存続を図る。
 そのプールする資金を渡す対象が社員全員になったと考えていただければ、ご理解いただけるだろうか。それには、会社と社員間ばかりでなく社員相互間に絶対の信頼関係が成立していなければ成功は不可能である。同社の創業メンバーがオーナー経営の悪い側面を充分味わって、それを払拭することから経営方針を決定しているので、金の亡者集団にならずにすんでいるのだろう。


オーナー型経営からの転換は可能か

では、果たして従来の借入金依存体質で何十年も経営してきたオーナー経営型企業から同様の手法による経営への転換は可能なのだろうか。
 人件費が固定費圧縮の最大の問題になっているような会社にとって、生き残る道がある。
 いままで何とか利益を確保して利益の中から約半分税金を払って残りを内部留保してきた会社が、今期、見通しが大幅な赤字が見込まれているようなケースを想定しよう。
 第一段階では、給与の大幅削減を行い、当期の必要利益金額(最低限度では借入金の返済予定額)が確保できる様にする。その上で、利益が出たら目標を超過した分はすべて社員に決算賞与として支給する。更に、支給した賞与(つまり源泉所得税などを差し引いた残額)を会社に貸し付けてもらう。


(図−1)

 これなら、国等に税金として約半分を支払って、残りを内部留保する方法より多くの資金が使える。会社の都合だけ考えればこんな良いことはないが、この提案をした段階で理解できない社員がまとめて辞めるかもしれない。残った社員も納得するだろうかという疑問を持たれるのは当然だと思う。

 では、社員の立場に立って考えてみよう。
 ちょと気の利いた社員なら、このまま会社にしがみつくだけで、座して会社の死を待って失業者となり、その後に再就職先を探すより、この際一所懸命に働きあわよくば決算賞与を獲得し、賞与を会社に貸し付けてでも職場を確保した方が得策であると判断するだろう。まして、自分たちの働きで会社が維持・再建でき、貸し付けたお金には預金金利を上回る2%もの利息が付くのなら言うことはないだろう。自己実現したくても出来ない今のご時世で、期せずしてその機会を持ち、自分の力で社会的にも認められる会社に出来るのなら、社員のやる気は従来とは比較にならない程上がり、社内では互いに『自立』して自己の果たすべき役割に充分力を発揮し、抑制の利いた『自律』した社員を多く輩出できるのではないだろうか。


中小企業における資本と経営の分離

 従来のような機関車型経営者が社員全員を引っ張っていくスタイルではなく、全ての車両にモーターが付いている状態でなければスムーズに走れない時代だからこそ、オーナー経営者が我を捨てて、会社を私物化することをやめれば社員はその気になるだろう。
 中小企業においてもそろそろ資本と経営の分離を模索する時代が来ているのではないだろうか。そうすることで、困難だと思われてきた「個人保証」と「後継者難」が同時に解消できる特効薬になることを期待している。

参考
株式会社トゥーワンのホームページ

http://www.two-one.co.jp/a21/





中央会計事務所
税理士 細野知久
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