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シリエズ総研 「アウズ」2000年9月号掲載分
プロの指導で始めよう
  資金繰り大作戦


資金繰り重視の経営を目指す

キャッシュフロー重視の経営とは

 上場企業において新会計基準の適用が本格化する中で、 中小企業といえどもその流れを無視するわけにはいかなくなってきました。
 企業の保有している有価証券・土地・ゴルフ会員権などの時価を調べるなど、 金融機関が企業を評価する基準として、新会計基準に盛り込まれている時価主義的な発想を 積極的に採用しているのは周知の事実です。
 また従来のような担保主義による貸付ができなくなった金融機関は、 連結財務諸表とキャッシュフロー計算書の公表を義務づけられている上場企業ばかりでなく、 中小企業にもキャッシュフロー重視の経営を求め始めています。
 中小企業にとってのキャッシュフロー重視の経営とは、経営者が決断し実行すれば良い という性質のものではなく、社員全員が日常の業務の中で各々がなすべきことをしっかりやることで 初めて実現できる、いわば「資金繰り重視の経営」です。


資金繰りの改善は全社の協力が必要

 資金繰りというと、すぐに銀行借入を思い浮かべるようでは、そこでもう失格です。
バブル経済崩壊後は「貸し渋り」「貸し剥がし」という言葉に代表されるように銀行は安易に お金を貸さなくなったばかりか貸金の回収に力を入れています。現在では保証協会の保証無しの 中小企業向け貸付は皆無に等しく、金融機関は機能不全を起こしていると言わざるを得ません。
 そんな時代に相変わらず「足りなかったら、借り入れすればよい!」と言っているようでは 早晩倒産の憂き目にあうでしょう。
 今の時代は、「借金上手な経理部長は会社をつぶす」とまで言われています。
 だから「資金繰り」は全社員の意識改革を必要とする経営システムとして取り組む必要があります。

各部署の資金意識チェック一覧表

 あなたの会社で日常的に資金を意識した会話が交わされているかを、各部署ごとの資金に対する意識調査をしてみましょう。

●購買担当者
□仕入先からの納品日の指定に際し、買掛金の締め切り日・支払日を考慮して発注しているか
□在庫の増加につながるような無駄な仕入をしないように心がけているか

●販売担当者
□既存取引先と同時に新規取引先の支払い条件を明確に把握し説明できるか
□担当顧客の入金状況を経理に確認しに来るか
□未入金があれば、客先にその理由を確認し入金日の確約を取り付けるか

経理担当者
□銀行別の預金残高と借入金の返済額・残高が言えるか
□定期的な支払や出金を把握しているか

経営者
□毎月の売上と仕入れを把握し、固定費の額が@人件費A経費B金利C減価償却費に分けて把握できているか
□毎月の損益を事前に予測し、実績とチェックしているか



資金繰り表作成の具体的な手順

********** 月次資金繰り表作成の手順 **********

@ 固定経費の把握
A 損益計画書の作成
B 借入金返済計画表の作成
C 売掛金回収管理表の作成
D 買掛金支払予定表の作成
E 各表からの資金繰り表の該当項目への記入
F 財務等収支の中で予定されるものを記入
   例・法人税・消費税などの納税
     設備投資などの支出
     固定資産の売却などの収入

G 経常収支の状況を把握
H 経常収支差引不足額の調達方法の検討
   例・売掛金回収予定の見直し
     買掛金支払い予定の見直し
   例・固定性預金取り崩し・短期借入金・割引手形など

I 「翌月繰越高」の確認

まずは損益計画を
 資金繰り表の作成に当たって、いきなり別紙のような資金繰り表に記入すると漏れが発生するなど、 問題点が多く発生します。
 しっかりした資金繰り計画を立てるには、まず損益計画ができていなければなりません。 損益計画書を作成する過程で変動費と固定費はしっかり把握できているはずであり、 損益計画と連動していない資金繰り表では実際の資金繰りが行き当たりばったりのものになってしま うでしょう。

資金管理表を揃えよう
 正確な資金繰り表を作成するには、次のような補助的な資金管理表が準備されていなければなりません。

@月別経費一覧表
A長期借入金返済計画表
B短期借入金返済計画表
C売掛金回収管理表
D買掛金支払予定表
E受取手形管理表
F支払手形期日別一覧表
G割引手形期日別一覧表

*本文中で使用した 表のダウンロード

■ご利用にあたって
ここでダウンロードしていただく表は Microsoft Excel 形式 で保存してあります。
ダウンロードしたマシンに Microsoft Excel がインストールされていなければ表を見ることはできません。


固定費の把握がスタート
 経常的な費用の支払いは、給与をはじめとして毎月の支払い日や金額は決まっているので、 その一覧表を作成しておきましょう。
その表は人件費を始め、交通費・地代家賃・リース料・電話代・電気代・ 倒産防止共済や自動車保険・火災保険などの保険料・顧問料・ガソリン代など製造と販売に 分け分類ごとに書き出し、合計金額を計算しておきます。
 これが損益計画書作成の基礎となります。

借入金返済予定表を作成する
 借入金返済予定表は長期と短期に分けて作成し、当初の借入発生時に金融機関から送られてきた 返済予定表に基づいて銀行別・借入口別に記入します。
 余談になりますが、ここで長期資金の借入を考えるときに重要な「収益返済」と「金繰り返済」 の考え方をしっかりと確認してみましょう。
 本来、金融機関は旧来の考え方によるキャッシュフロー(税引後当期利益+減価償却費) をベースに返済可能額を計算し、当期の返済額がそれを大きく上回る様なら「収益返済」 は不可能だと判断しています。
 しかし従来は、収益返済では年間2千万円しか返済できないのに銀行との約定では年間5千万円の 返済をしているような場合に、ある程度返済が進み、担保に余裕が有れば差額の3千万円について 再度貸し出しをすることが常識とされていました。
 これまではそれによって、企業は資金繰りが成り立っていたのです。これを「金繰り返済」と称されるも のです。
 しかし金融機関の貸付姿勢は、バブル経済崩壊後は完全に変化して、「金繰り返済」は成り立たなくなりました。
つまり、返済可能額以上に無理をして返済すれば当然資金は不足するが、それを埋め合わせる資金は 貸してくれません。その「貸し渋り」に対抗するには「返し渋り」しかないが、 それを強行するときは「今後一切新規借入はしない」と覚悟する必要であります。
 損益計画書で目標利益(税引き前)を借入金返済予定額の2倍にしてあるのは「収益返済」可能額 を見るためです。


長期借入金

 資金繰りの方針として借入金を前提にしても良い項目は限られています。
 設備投資は長期借入金の代表的な例だが、「収益返済」を実現する基本的な考え方は返済期間と 減価償却期間を合わせるところにあります。
 しかし、必ずしも返済期間を当方の希望通りにはしてくれないので、また別の形で資金繰りの 必要性が生まれます。


短期借入金

 短期資金の代表的なものが運転資金と言われるものだが、運転資金が必要となるのは次のような ケースです。
 建設業において、完成時の残金支払いが住宅ローン・住宅金融公庫などの融資の実行が遅れる ような場合につなぎ資金が必要になることがあります。
 このような回収が確実な売掛金がある場合のつなぎ資金として、都民銀行のスモールビジネスローン などが考え出され人気を博しています。
 また運転資金には事業規模の拡大に伴って資金が経常的に足りなくなるケースもあります。
 売上高が月額3千万円から急に5千万円に増加し、売掛金回収まで2ヶ月あるとしたら、 確実に2千万円分の売上増に対応する仕入れ金額は増加しているはずです。この場合、 仕入れ月に即納品したとしても、買掛金支払まで1ヶ月・在庫が平均売上高の1ヶ月分としたら、 売上が増加して安定するまでは、おおよそ2〜3千万円は資金不足になります。この金額は運転資金 として補充しなければなりません。


賞与資金・納税資金(法人税・消費税)

 この他、賞与資金の様に半年に一度必要となる資金は、7月の賞与資金は12月の賞与までに 返済し、12月の資金も次の賞与支給時期までに返済します。
 納税資金の内、法人税等の確定決算に伴う税金は利益の出ている証拠なので比較的借入は容易だが、 これも同様に次の納税時期までに返済するのが原則です。
 消費税は、本来預り金であるから売上の中から一定金額を積み立てておき3ヶ月に一度、 又は6ヶ月に一度の納税に備えておくべきでしょう。しかし、資金繰りが厳しくなってくると、 どうしても先に使ってしまうので、後からそれを埋める形で借入をして、 返済をすることになりがちです。
 こうした経常的に発生する季節資金は、金融機関に常日頃から当方の資金繰り計画を周知 させておくことで、付き合いのある支店に「今回も貸し付けられる」との期待を抱かせられれば 成功といえます。
 金融機関との付き合いの基本には「信頼」を置くべきだが、得意先回りの担当者に接するだけ でなく、信頼を築くためにも普段から経営者が支店に出向き、支店長にも通常の営業成績の他に 経営方針や夢を語り、更には長期的な視野から後継者育成への対応なども明らかにしておく必要 があるでしょう。


売掛金回収管理表

 中小企業のコンピュータ化は販売管理から始まったといえるほど販売管理システムは普及しています。 通常、販売管理システムでは、受注処理から始まり納品書・請求書を発行し、得意先ごとの売掛金の 入金処理をして残高を管理しています。その場合、得意先との取引条件は、コンピュータで管理されて おり、初期設定で○○円以上は手形○ヶ月期日または二分の一手形・二分の一現金(通常、 半手半金などと言っています)などのように入力され、当月の請求額に対する回収予定表は自動的に 作成されることが多いものです。
 もし、売掛金管理が手作業でされているなら、請求書の締め切り日ごとに請求額を書き出し、 それを回収予定日ごとに並べ替えた表を作成しましょう。その際、得意先からの検収通知や支払通知が ある場合にはそのチェックも忘れずに行います。
 このようにして作成された売掛金回収管理表から各月ごとの振込や小切手による回収予定額が記入 される。手形回収は回収時に手形記入帳に記入して管理しましょう。


買掛金支払予定表

 売掛金回収管理表と同様に買掛金の支払予定表も作成する。
 買掛金支払予定表も、コンピュータ化している場合は買掛管理システムの支払予定表を利用するが、 手作業の場合には仕入先からの請求書に基づいて作成します。その際忘れてならないのは、 納品書や物品受領書とのチェックです。チェックを怠ると、前月に支払い済みの金額が繰越金額欄 に記入され当月請求額と合計されているのに気付かずに重複して支払うなどということが発生してしまいます。
 買掛金支払金額の内、現金支払いの金額だけを資金繰り表の「買掛金支払」欄に記入します。手形支払は別途手形を発行し手形受払帳に記入し、 期日ごとの決済予定金額を管理します。


資金繰り表への記入

 このようにして、あらかじめ作成した各種補助表をもとに 資金繰り表の該当欄に記入してみましょう。
 この段階では、「受取手形期日落」「支払手形決済」「手形割引」など手形に関する 項目が未記入となっています。
 「受取手形期日落」は手形記入帳から手持ち手形の決済月毎の金額をもとに作成した 「受取手形管理表」から記入します。
 また「支払手形決済」も同じく手形記入帳から期日毎に決済予定金額を集計した 「支払手形期日別一覧表」をもとに記入します。


差引不足額の調達

 これら手形に関する項目を記入したところで、該当月の「翌月繰越高」を確認し、マイナスに なっていれば「手形を割り引く」か「借入をする」かなどを検討しなければならなくなります。
 しかし、ここで借入や割引はずーっと後に考えるべき項目であることをもう一度 思い出してください。
 まず第一番に再検討して欲しいのは「売掛金回収」に漏れがないか、あるいは現金回収すべき 金額が手形回収になっていないかなどです。こうのように得意先から一方的に支払い条件を変更 されているとことがあるので注意をしてみてください。
 次に、買掛金など支払の中でクレームや検収落ちなどの要素で支払わなくても良いものが無いか を検討します。
 建設業の会社で、工事がきちんと完了していないのに請求書が出ているからということで支払って しまっていることは頻繁に見受けられるものです。


日次資金繰り表で運用

 月次の資金繰り表を作成して、「翌月繰越額」がマイナスにならなくなったら一応資金繰りは完了 したことになります。
 しかし、実際はまだ終わっていない。経理を担当していれば分かると思うが、複数の金融機関と取引 があるとその全ての口座でマイナスになってはいけないのです。たとえ一円でも不足すれば金融機関 から矢のような催促があるし、時間までに不足金額を入金しなければ恐ろしい「不渡り」という事実が 待っています。一度不渡りを出し、6ヶ月以内に二回目の不渡りを出せば「銀行取引停止処分」となり 「事実上の倒産」といわれています。
 そのような事態を引き起こさないために、月次資金繰り表が完成した後も、毎日のチェックは 「日次資金繰り表」これで行います。
 この表では銀行別の残高は管理できないので、さらに詳細に管理をするには銀行別の日次資金繰り表 を作成する必要があります。


資金繰り表の完成は通過点

 資金繰り表の作成は、表を作ることに意味があるのではなく、その作成を通して資金上の問題点 を探し、数ヶ月先の経営全体の動きを捉え、早め早めに次なる一手を打つことに意味があります。 従って、経理の資金繰り表作成担当者は、表の作成をしながらあらゆる部署の人々と接触をし、 さらに一歩進んで経営者にその現状を伝え、指示を仰ぐことができなければならないといえる でしょう。


会社を発展させるための付加価値を生み出そう

 F(固定費)=mPQ(付加価値)という損益分岐点を表す数式があります。この数式の意味する ところは「固定費を上回る付加価値を稼ぎ出さなければ会社はつぶれる」ということなのですが、 経営指針や経営計画、そして損益計画書の作成は会社を発展させるために必要な付加価値の確保 について明確な指針を与えてくれます。
 資金繰り表の作成は、さらにそれだけではなく「儲かっていても資金ショートを起こせば会社は つぶれる」ということを明確に教えてくれます。
 公表されている経済指標などでは経済は回復基調になったとされているが、 中小企業を取り巻く実体はまだまだ厳しいものがあります。これから年末に掛けて納税や賞与など 資金需要の多い季節になりますが、さらなる努力と工夫をして少しでも資金にゆとりのある経営を 目指してください。
(完)

*本文中で使用した 表のダウンロード

■ご利用にあたって
ここでダウンロードしていただく表は Microsoft Excel 形式 で保存してあります。
ダウンロードしたマシンに Microsoft Excel がインストールされていなければ表を見ることはできません。


資金繰り表を使うに当たって
*注1
参考事項の売掛金・買掛金・受取手形の計算は、裏書手形・相殺などがある場合は 連動させないで手入力とする。

*注2
支払割引料は、手形割引欄の額に割引料の利率に応じた率を乗じて計算する

*注3
借入金利子は、長期・短期借入金返済計画表の利息合計額である


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