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JDL Avenue vol.37 2003年1月

経理実践トレーニング 資金戦略編 vol.6
貸借対照表から考える 1

中小企業の生き残り戦略
 長引く不況の中で中小企業・零細企業が倒産するのではなく廃業してゆくケースが見られる。統計上の数字は得られないが、実感ではかなりの数になっているようだ。家族経営の個人事業が自転車操業でも潰れないのは、多くの場合手形を発行せず現金商売だけに限定してきたことにある。商いの規模も大きくなく担保物件もなかった為に却って救われている。
 また債務超過が長く続いているのに倒産しない会社がある。これも、同様に手形を発行しないことで、「不渡り」とか「銀行取引停止処分」とは無縁な経営をしているケースだ。
 既に手形商売の中にどっぷり浸かっている企業にはかなり困難な話だが、最近になって手形決済が増えてきた企業やまだ手形取引が少ない企業には注目して欲しい事柄である。

基本を忠実に実行する
 図−1の流動資産から流動資産への矢印の意味を説明すると、貸借対照表の中で現金資金に一番近い勘定科目は「売掛金」だが、この科目は商売の仕組みの中で資金の流れを決める一番大きな要素である。
図−1B/Sとお金の流れ

 このことを再認識した上で商売の原点に帰って、全社員に「現金を手にするまでは商いは完結していない」ことを徹底する必要がある。
 契約を取ってきた段階では商売の入り口に立ったに過ぎない。取引条件も決めずに商品を納めて、集金が何時になるのかも気にとめていない社員が如何に多いことか。商品を納めたり、仕事をして請求がしっかりと出来ないのは、商品に欠陥があったり、仕事が不完全だったりという、何か後ろめたいことでもあるのだろうか。そうでないのなら、正々堂々と集金が出来るはずだ。集金が終わらない限り、商品を只で配っているのと何ら代わりがない。集金が出来なければ、あなたが手にする給料の資金はどこから来るというのだろうか。
 多くの企業に関与して感じるのだが、個々の社員が(時には経営者自身が)ビジネスマンとして基本的なこの様なことが(頭では分かっているのかも知れないが)出来ていないことを痛感する。
 商いのチェックポイントを売掛金の発生から回収までの一連の流れに沿って列記するので、貴社ではどうなっているか振り返って欲しい。

チェックポイント
@取引条件は決まっているか
A売上は確実に計上されているか
B請求書は期日までに客先に届いているか
C集金の事前確認をしているか
D回収結果をチェックしているか
E未回収についての原因を調査し、回収が確実になるまで追跡しているか


 これを見て「何をいまさら」と思う人に二通りある。一つは、こんなことはとっくの昔にやっていて資金繰りに困っていない人であり、もう一つは頭では分かっているが実行できていないで資金繰りが大変な人である。
 基本を忠実に実行するというのはその位難しい。


手形取引を無くする努力
 次に、「受取手形」について触れると、昨今の倒産事例を見ると手形取引が連鎖倒産を引き起こす大きな要素になっていることを痛感する。
 手形取引は上記の売掛金の回収を更に遅らせ、リスクを高める要素である。
 売掛金だけなら1ヶ月分の貸し倒れで済むのに、手形取引になれば受取手形の未決済残高が加わって貸倒金額は売上高の4〜6ヶ月分にもなる。仮に月商1千万円の客先であれば、4〜6千万円の「純利益」が吹き飛んでしまうのだ。その純利益を取り戻すのには、純利益率が2%とすれば改めて20〜30億円もの売上をしなければ回収は出来ない。その売上が主要取引先であれば連鎖倒産が起こるのは当然だ。
 仕事を取りたい一心で決済条件に甘くなれば資金繰りは一層厳しいものになる。ここでじっとこらえて支払条件が悪ければ受注しない方が生き残り策としては上等である。
 粗利益が少なくなっても手形の割引料とリスク負担を考慮すれば、値引きを要求されても現金取引の方が賢明である。
 結局は、経常利益・純利益段階で今まで通りか、より多くの利益が確保できればよい。
 資金戦略は「出」と「入り」の金額とタイミングのバランスの上に成り立つ。
 流動資産の「売掛金」「受取手形」とは貸方の流動負債にある「買掛金」「支払手形」とのバランスを取ることを考える。
 売値が押さえられるのであれば、必然的に仕入れ値を引き下げなければ採算はとれない。現在は買い手が有利な状況にある、あなたが売上が欲しいように、仕入先も売上が欲しい。その関係の中で、支払条件に安全性が加わったら更に仕入先と価格交渉がしやすくなる。お互いがより安心出来る支払い条件で取引をする方が説得力があり、「倒産」から少しでも距離を置くことが出来る。
 企業間信用の縮小を不況の原因といって嘆く向きもあるが、今は取引金額を競う時代ではない。中小企業が生き残るには、見栄や外聞を捨ていかにして純利益を残すかが決め手になる。
 あまりにも当たり前のことだが、出来ていない例が多いのであえて申し上げるが、資金繰りの楽な経営にしようと思ったら、仕入から資金化までの道のりを短くし、その回転を速くする、これに尽きる。
 在庫はゼロが理想である、理想に一歩でも近づけるには倉庫にある在庫が「札束に見える」まで、「売らなければ給料が出ない」と強迫観念に駆られるまで、在庫を減らすことを徹底しなければならない。
 そのための工夫がまだまだ足りない企業が多い。

@仕 入
  ↓
A在 庫
  ↓
B売 上
  ↓
C回 収
  ↓
D資金化 → @

資産の資金化を図る
 本業でのお金の流れの他に、試算表を見ていただくと流動資産の部に「貸付金」「立替金」「仮払金」などが目に付くだろう。多くの会社でこれらの科目が放置されている現状がある。発生原因は様々であるが、いずれも時間が経てば経つほど回収が難しくなる。資金繰りが厳しいといっている会社ほど、このあたりに無駄な資金が眠っているケースが多い。
 また「差入保証金」などで既に取引が無くなっているのに預けたままになっていることはないだろうか。これも立派に資金化できる。
 平成大不況が始まってもう大分経っているので既に不良資産の処分は済んでいるはずなのだが、未だに固定資産の部に含み損を抱えた「土地・建物」や「ゴルフの会員」権等を抱えているケースが多く見受けられる。大手企業が必死になって総資産の圧縮をしているのに意外と中小企業ではまだ処分できずに抱えたままになっているようだ。
 税務上の欠損金の繰越控除が5年で切り捨てられることから損切りの決断をしにくいのは分かるが、少しでも早く見切りを付けて自らを厳しい状況に追い込まないと「全社一丸」となって戦う姿勢を作りにくいのではないか。
 「機械・装置」や「車両運搬具」「什器備品」でリースが可能なものなら、リース会社が資産の圧縮についての提案をしているのを散見する。一時的ではあっても資金調達の手段としても使え、更に総資本利益率を向上させるなど、経営指標面にも効果があるので検討する価値がある。

倒産しない会社にしよう
 絶対に潰れない経営形態などというものはあり得ないが「潰れにくい」ことが実証されているなら、それに近づける努力は是非して欲しい。
 継続した商売の中で手形を受け取らないことは、自分の意志決定だけではなかなか出来ないが「手形を発行しない」と決めることはすぐにでも出来る。「出来ない」という人は腹が決まっていないだけである。
 既に手形商売や掛け売りが当然という中で長年生きてきた企業にとっては「手形では売らない」とか「掛け売りをしない」と決定するのは至難の業だろう。しかし、時代は確実に現金商売重視の方向に動いているということは強調しておきたい。
 三井財閥の家祖三井高利が「現銀掛け値なし」という新商法を編み出した時代と、舞台も役者も現在と酷似していると思うのは筆者だけなのだろうか。
 向かうべき方向を決めなければ現状の漸進的変更すらも出来ないだろう。「我が社の置かれた業界では無理だ」と思っている方はどうぞそのままの状況でお続けください。確固たる意志と独自性を打ち出せない企業に未来はない。


中央会計事務所
税理士 細野知久
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