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経理実践トレーニング 資金戦略編 vol.7 貸借対照表から考える 2 貸借対照表の貸方は資金調達源泉 貸借対照表の貸方は資金調達源泉を表している、というこの基礎理論もたびたびお話ししているので、もう充分にご理解いただいていると思うが、いまだに「資金調達」=「銀行借入」という感覚から抜け出られない経営者の為に再度このことを強調して、貸借対照表の貸方の検討に入ろう。
資金調達は自己資本が基本 貸借対照表貸方はまず負債から書き始めることから、なんとなく資金調達というと、即「負債」という感覚を持っている方が多いようだ。これは過去半世紀にわたって日本全体で銀行に依存する過小資本経営が当然のように行われてきたことも影響していると思われる。 しかし、設立当初だけを考えてみても最低資本金(有限会社は3百万円、株式会社は1千万円)だけで、いったい何が出来るというのだろうか。仮に1ヶ月の固定経費が3百万円としても1〜3ヶ月分の兵糧で、売上による利益が発生し、使える資金となるまで持ちこたえられるのだろうか。 やはり、起業にあたって最低限固定経費の4〜6ヶ月分位、欲を言えば1年分位の資金は準備したい。本来であればそれをすべて資本金で準備すべきだろうが、多くの場合、創業時の不足資金は社長からの借入金でそれを補っている。これが将来にわたり「この会社は俺の会社だ」という意識につながる不幸の始まりとなっている。 資本金を一人で出し、自分が社長になることが目的なのか、自分が考えた事業を立派に成し遂げることが目的なのかをこの時点で間違えるから同族企業の弊害が増してくるのだ。 起業にあたって「会社設立目論見書」を作成し、多くの友人知人に見せ、その事業に出資を募る形で設立された企業は、設立当初からその経営姿勢をしっかりと堅持しなければ、経営者は出資者に責任が果たせない立場になる。そのことが、「会社は公器である」という基本認識につながって、透明性の高い、自律心のある経営者を作っていく。 これからは中小企業といえどもこのような形の新時代の起業スタイルを早く確立していかなければ、社会的に認められる「企業」とはなりえない。銀行に対して「個人保証を求めるな」「担保主義による貸し付け姿勢を改めろ」と要求するからには、求める側も当然この程度のことは実施できなければならない。 仮にこのような理想的な形態で設立が出来なかった場合でも、後に記す「他人資本」に対する認識を改めることで、自律心のある経営者になることは出来る。 「他人資本」の持つ意味 資金戦略を考える上で、負債=借金=他人資本という認識を持つことで経営に対する姿勢の制御と多くのイマジネーションを沸き立たせる効果が期待できる。 資金力が無く出資に関して多くの支持者も得られない起業家は、下世話なたとえで恐縮だが「他人の褌で相撲を取る」道を選択せざるを得ないのが実情である。 商売を始めて、売掛・買掛などの金銭的な貸し借りが発生し始めたらこの時点ですでに「他人様のお金」を預かっていることになる。 多くの詐欺師は、この時点から周到な策略を巡らし他人から少しでも多くの資金を引き出し、自分の目的だけに使い始める。あなたが詐欺師とならない為には、「他人様のお金」を「他人資本」という性質のものだという基本認識を自分に植え付けることが大切である。その上で、これから記す、諸々の個人保証を必要としない「負債」を「信用」という担保で獲得することが大きな資金戦略となる。 負債は大きく次の4種類に区分できる。
まず営業上の買掛債務は「買掛金」「支払手形」に代表されるように「仕入代金を後払いする」ことで資金調達をしている。開業当初黙って数百万円も掛け仕入をさせてくれた会社に多大な恩義を感じると語る経営者が多いのはそのことをしっかりと認識しているからである。別の言い方をすれば、その人は創業以前から積み上げてきた「信用」という立派な担保をもっていたから「掛け売り」という形で仕入先が援助してくれたとも言える。そのような方々に「不渡手形」を発生させて「倒産」することは罪悪だ、という覚悟の下に経営をはじめる起業家はどのくらい居るのだろうか。 次に借入債務は「銀行借入金」「関係会社借入金」「役員借入金」「社員借入金」など様々な形態があるが、従来の中小企業の実情では、銀行借入以外は多くの場合代表者が「個人保証」を要求されることは少なかった。これも「信用」という無形の担保力が作用していたから出来たことだという認識が必要である。近年はやりの私募債は「社債」の一種だがこれも同様に縁故者が担保なしで「信用」だけでお金を貸してくれている特殊な例だとの感謝の気持ちがあれば「他人資本」という言葉の意味が更に重みを増してくる。また、リース契約で設備投資をすることがあるが、これも貸借対照表上は簿外になっているが、法律的にはリース契約金額全体が債務の額であり、実質的には借入金といえる。(尤もこれは銀行借入と同様しっかりと個人保証を求められている) 「他人資本」に支えられて商売が成り立つ 引当債務の代表は「退職給付債務」だが、会社に退職金規程があれば将来社員が退職する際に退職金を払う潜在的な義務が発生している。 社員は会社がその義務をしっかりと履行してくれるものと信用して今働いている。その信頼を裏切らない為にもキチンと利益を上げ、資金源を確保しておかなければならない。 最後にその他の債務に属するものの中には「未成工事受入金」や「前受金」のようにまだ工事が終わっていない、商品も納めていないのに先に現金をいただけるお客様からの貴重な資金がある。また、貴社の商品に人気があれば「是非売らせてください」と代理店になりたくて「営業保証金」を積んでくれるお客様まで現れることになる。 商売に成功しても決して「俺の力で会社を大きくしたのだ」等と自惚れてはいけない。このように多くの「他人資本」に支えられているからこそ、商売が成り立ってきたのだという謙虚な気持ちを忘れたときから、その企業の崩壊が始まる。 やはり基本は無借金経営 金融ビッグバン以来「自己資本比率」という言葉が頻繁に登場するようになってきたので、多くの方々にその重要性がご理解いただける環境が出来てきた。 そこで、再度無借金経営の重要性を確認しておきたい。現在の社会制度の中で「法人」とは名ばかりで個人事業と同様の内容であり、またそれ故に、「法人」としての適切な扱いを受けていない中小企業が、経営を続けて行くに当たり、代表者が個人保証をして、事実上無限責任を負う限り、その企業が倒産したときに社会的に迷惑をかけない為の最低条件が「実質無借金」である。 「実質無借金」の定義を再確認しておくと、仮に今会社を解散するとして、貸借対照表の借方のすべての財産を現金化し、貸方に記載されたすべての債務と、リース債務などの簿外の債務まで含めたすべての債務を返済しきれれば、実質無借金経営といえる。 それで余剰があれば、はじめて株主であり経営者である「事業主」の手許に残る部分が出来る。これが、実質的な自己資本である。 新たな資金調達をして、新規事業に乗り出す場合にも、「万が一事業が失敗しても事業に関連する多くの方々に絶対に迷惑をかけないのだ」という堅固な決心があれば、自ずとこの慎重な経営姿勢が貫かれてくるはずなのだが、残念なことに、「後は野となれ…」程度のばくち的な経営姿勢が目立って仕方がない。 無宿者のばくち打ちにたとえるほど悪くないにしても、その昔、士農工商と身分が分かれていた時代に最下位におかれた「商人」が世間から軽蔑されずに信頼されて生きる為には「武士道」※の精神を持って経営にあたっていただきたい。 無借金経営への道程は険しく遠いが、一人でも多くの方に、明日の日本を背負って立つ気概のある経営者になって欲しいので敢えて厳しいことを申し上げたことをお許しいただきたい。 ※参考図書 日本人らしく“凛”と生きる「武士道」の智恵 梅谷忠洋著 ゴマブックス刊 2003年1月初版発行 |
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