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JDL Avenue vol.42 2003年9月

経理実践トレーニング 資金戦略編 vol.10

資金調達先で考える


直接金融の時代に備える

 日本では個人の金融資産残高が1400兆円と言われ、その約54%が預貯金等、27%が保険等であるといわれていた。従来この預貯金は銀行から企業への貸付金として間接金融の形で利用されてきた。それに対し、直接金融の形で株式等を保有する割合はわずか19%だった。
 国は直接金融の比率を米国並みに引き上げようと様々な試みを行っているが、一朝一夕には実現しそうにない。しかしその中でも、預金金利がゼロに近い状況が続いていることから、僅かずつではあるが確実に資金移動は始まっている。しかしその異動先は皮肉なことに株式ではなく保険等へとなっており、現状ではむしろ株式は株価下落に伴って相対的にその地位を後退させている。
(日本経済新聞平成15年6月16日)
 あなたは今の株式市場の状況の中で積極的に株式を買いたいと思うだろうか。日本の株式市場特有の「持ち合い」が未だ解消されていない状況では、個人投資家が、複雑化する証券税制を研究してまで積極的に株式投資を始めるとは思えない。どうも米国のように、個人投資家がインターネットを通じて、自分の勤務する会社と関係なく、投機的な株式取引をすることが一般的になるとは想定しにくい。
 日本を直接金融中心の社会にするには、会社の利益と自分の利益が一致するような経営形態が多くなることで、過去に於いて多くの人が貯蓄に励んだように、多くの社員が自分の勤務する会社の株を買い、その結果として株式市場に資金が集まるような施策が必要なのではないか。一方に於いて、高度成長期に多くのサラリーマンが考えたであろう「私が勤めている会社は将来にわたり安心して勤められるか」という発想から、「私の勤めている会社は、社員と株主の双方を大切にするか」という発想へと、社員の意識が変化すれば、個人投資家が増えることは考えられる。
 つまり、日本の株式会社の90%を超える中小企業が、事業規模を一定以上に大きくしたければ、従来型の社長一族の一人株主の時代から「みんなの会社」といえる「出資者は全員社員」あるいは「社員は全員出資者」というスタイル(言い換えれば、同族会社でない中小企業という形態)を確立する時代へと変化せざるを得ない状況に追い込まれるといって良いだろう。

創業スタイルの重要性

 中小企業の資金戦略を考える上で、今までは経営方針との関連性を考慮する経営者は少なかった。
 創業に当たり、我が社を将来どの様な企業にするかを考えると、自ずと創業資金の調達方法に変化が出てくる。
 以前このシリーズで、「生業」「家業」「企業」と3分類をして、経営形態によって資金戦略が変わるということをお伝えしたが、これまでも「企業家」は創業時に、自分の持っているお金の範囲で資本金を決めるのではなく、きちんとした事業計画書を作成し、その事業を成功させるために必要な資金を見積もり、設立趣意書、目論見書などを作成し、多くの協力者を掘り起こし、その人々を株主として出資を募る形を取っている。
 とりあえず会社を設立し、事業規模が大きくなってから「さて、今後の資金戦略は」と考えるのでは少し遅い。やはり、創業時にしっかりとした経営方針を打ち出し、それに沿った資金戦略を持って経営に当たるのが本来の姿である。今日のソニーがあるのも創業時にしっかりとした会社設立の目的と経営方針が示されていたことを忘れてはいけない。

(SONYの前身東京通信工業株式会社の設立趣意書)

会社設立の目的
一、真面目ナル技術者ノ技能ヲ、最高度ニ発揮セシムベキ自由闊達ニシテ愉快ナル理想工場ノ建設
(中略)

経営方針
一、不当ナル儲ケ主義ヲ廃シ、飽迄内容ノ充実、実質的ナ活動ニ重点ヲ置キ、徒ラニ規模ノ大ヲ追ハズ
一、経営規模トシテハ寧ロ小ナルヲ望ミ大経営企業ノ大経営ナルガ為ニ、進ミ得ザル分野ニ技術ノ進路ト経営活動ヲ期スル
(中略)
一、従業員ハ厳選サレタル可成小員数ヲ以ッテ構成シ、形式的職階制ヲサケ、一切ノ秩序ヲ実力本位、人格主義ノ上ニ置キ個人ノ技能ヲ最大限ニ発揮セシム
一、会社ノ余剰利益ハ適切ナル方法ヲモッテ全従業員ニ配分、又、生活安定ノ道モ実質面ヨリ充分考慮援助シ、会社ノ仕事即チ自己ノ仕事ノ観念ヲ徹底セシム
(以下略)
   ●http://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History/prospectus.html 


 1円でも株式会社が設立できることを中小企業挑戦支援法による特例ではなく、商法の改正により最低資本金規制を完全撤廃し、恒久化しようという動きがあるが、(日本経済新聞平成15年6月30日)筆者は、その方向には反対である。なぜなら、国の方針が間接金融中心から直接金融中心の社会へ移行しようと決まっているのに、「起業」のハードルを低くすれば廃業率よりも開業率が高くなるかのような安易で馬鹿げた支離滅裂な発想に基づく政策は、取るべきではないからだ。
開業率の低さの原因は別のところにある。

 いくら起業のハードルを低くしても、その後の企業経営に、最低限必要な資金を調達しなければならない状況は変わらない。資本金が少ない企業は必然的に借入金に頼らざるを得ないことから完全に間接金融中心の経営スタイルへと逆戻りをする。

 もし、それでも敢えて間接金融中心の経営スタイルを支援するのであれば、国は当然それに対応した金融政策を採る必要がある。その対応は、前回提案した疑似資本金的な貸付制度や、金融アセスメント法の制定などによる、地域金融の安定化・活性化策などである。


少人数私募債

 中小企業における直接金融の一形態として徐々に浸透してきているのが、少人数私募債である。
 少人数私募債は、仕入れ先や得意先を対象にその企業の将来性や経営者と企業の信頼性を基礎にして発行される。それだけに日頃からの経営内容の開示や、仕入れ先・得意先との良好な関係が重要である。
 次に掲げる諸条件を満たせばすぐにでも出来るので検討の価値がある。

条  件

@社債の購入者が50名未満であること
A社債の一口の最低金額が、発行総額の50分の1未満であること
B募集の対象者は知人や親類、取引先などで、社債引受人には銀行や証券会社といった金融のプロがいないこと
C不特定多数のものを勧誘(公募形式)するものでなく、引受け後も不特定多数の者に譲渡されるおそれの少ない場合に該当すること
D発行が株式会社によって行われること
など


メ リ ッ ト 

発行会社側
@社債は据置期間の長い借入金のため自己資本に近く、償還期限が来ても信用力さえあれば再度発行することもできる
A利息の支払いは後払いのため、前払いが原則の銀行借入金より実質金利は低くなる
B株式配当金なら税引後の利益から支払うことになるが、社債利息は損金扱いとなるので法人税法上有利となる
C基本的には担保付きでないため、銀行借入金のように担保物件がいらない。したがって担保設定の費用や印紙税、登録免許税などがいらない
D保証会社もいらないため保証料などが生じない
E社債権者は株主ではないため議決権などは生じない。従って決算書の公開義務もないが、現実には社債権者に公開することで信用度を深めているケースが多い
F社長借入金などを社債に振り替えることによって、法人・個人間の取引関係が明確になる
G社債を発行していることによって、第三者などに対して企業自身の信頼度が高まる可能性がある


引受側
H預貯金より有利な利率で資金を運用することができる
I社債利息は20%の源泉分離課税で完了するため、高額所得者にとっては税務上有利となる



※参照 銀行に頼らない「資金調達」塩見哲著
 (株)かんき出版 2001年11月12日発行


中央会計事務所
税理士 細野知久
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