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JDL Avenue vol.44 2004年1月

経理実践トレーニング 資金戦略編 vol.12

資金調達先で考える 3


深まる地域金融機関の苦悩

 金融ビッグバンの影響で都市銀行・地方銀行の再編が進み、さらに地域金融の担い手である多くの信用金庫・信用組合等の協同組織金融機関までもが合併や閉鎖に追い込まれてきた。
 本来、信用金庫・信用組合などの協同組織金融機関は、大手金融機関から借入が出来ない中小企業が互いに出資をし、小口の預金を集め、その資金を出資者に貸し出すことを前提に作られた組織である。
然るに、金融庁の金融検査マニュアルによって、その出資者であり債務者である中小企業への貸出の多くが貸倒引当金を必要としない優良債権とは見られずに協同組織金融機関の存続そのものを危うくしてしまった。
 金融検査マニュアルによって、大小を問わず金融機関は収益力のある優良企業に対してでなければ貸し出しが出来ない所に追い込まれているが、業績や財務体質の良い優良企業は、借入を必要としないという大きな矛盾に陥っている。
 そこで大手銀行は手数料収入を中心とした営業形態に大きく傾斜し、少しでも業績に不安のある中小企業に対する貸出には「リスクがある」との理由でかなり強引に金利の引き上げを迫っている。
 その上、地域金融の担い手である信用金庫などの優良顧客に対する貸付は、都市銀行や直接金融に奪われてしまうという、地域金融機関にとっても中小企業にとっても、ますます深刻な状況を引き起こしている。

中小企業の資本戦略

 一方資金の供給を受ける中小企業の側は、「無借金経営」(*注1)を目指さざるを得なくなっている。
*注1:筆者の「無借金経営」の定義*

 無借金経営とは、言葉を換えれば、自己資本を充実することである。その自己資本を充実するには、
@留保利益を増やす
A増資をする
この二つの道のいずれかしかない。
 収益力を飛躍的に高めて留保利益を増大させるのは容易なことではない。となれば無借金経営を目指す観点から、増資という方向での資本戦略を考える必要がある。
 中小企業の資本戦略を考える上での視点を、経営手法と事業承継の関連から押さえてみよう。蛇足になるが以下の事柄を考える際の前提条件として、株主と役員の法律的関係など商法における株式会社の仕組みをキチンと理解すると同時に、株主総会の開催や決算書の公開などを通じて社員や株主との意思の疎通を図り、開かれた企業経営を心がける必要があることは言うまでもない。

意思決定と株主・役員

 中小企業を安定的に運営するには、我が社を将来どの様な会社にするかという基本戦略の決定はもちろんのこと、企業経営の多くの場面で即断即決が欠かすことが出来ない。小さな船に船頭が多くなってはそれすら適時的確に行えなくなる。そのために社長がすべての株式を保有したのが今までの中小企業の常識であった。
 しかし、事業規模が大きくなって必要とする資本金をこれからもすべて社長一人が出し続けるのは至難の業である。多くの企業で「社員持株会」を発足させ、広く社員から出資を募る形を取り始めてきた背景にはこのような事情もあった。
社員持株会の運営を開始するに当たって一番多くなされる質問が、「社員持株会に何%まで保有させるか?」である。
 この問題は社員持株会だけでなく株主の数を増やす過程では必ず検討しておかなければならない。
 経営に関する意思決定をスムーズに行うためにも、経営陣に協力的な株主が多くいる必要があるからである。
 最悪の状態を想定して、法律の規定に従って問題を解決しなければならなくなったとき、経営陣の意思決定を阻害するような株主構成にしないことが望まれる。そのためには商法でどのような規定があるかを検討しておく必要がある。

図−1株式の議決権と株主決議の関係
総株主の議決権に対する割合     内    容   

3分の2

(株主総会における特別決議)


(役員の地位の変更)
●取締役・監査役の解任(商257)
(シェアを変化させる事項)
●譲渡制限株式発行会社の第三者割当増資(商280の5の2)
●譲渡制限株式発行会社の第三者への新株予約権の発行
  (商280の27@但書)
●有利な発行による第三者割当増資(商280の2A)
●有利な発行による第三者への新株予約権の発行
  (商280の21)
(会社の内容を変化させる事項)
●営業譲渡、営業譲受(商245)
●定款変更(商342)
●資本の減少(商375)
●解散(商405)
●合弁(商408)


2分の1

(株主総会における普通決議)

●株主総会成立要件(商239)
●取締役・監査役の選任(商254)
●計算書類の承認(商283)
●会計監査人の選任(商特例法3)


3分の1
(株主総会における特別決議を阻止できる)


●取締役・監査役選任のための定足数(商256の2、280)
●解散請求
●業務財産調査のための検査役選任請求(商294)


4分の1超

株式の相互持合による議決権の制限(商241B)

100分の3
●少数株主の株主総会招集請求権(商237)
●取締役・監査役の解任請求権(商257B、280)
●整理申立(商381)
●少数株主の帳簿閲覧権(商293の6)

100分の1

●少数株主の総会決議提案権(商232の2)

1株以上



●定款・株主名簿の閲覧権
●株主総会議事録の閲覧権
●決算書類、付属明細書の閲覧権
●取締役会の議事録の閲覧権、謄写権
●代表訴訟提起権等(6ヶ月継続保有株主)(商267等)

参考資料
(財)ベンチャーエンタープライズセンター「資本政策実務ガイド」

 また、役員の選出にも配慮が必要とされる。いささか旧聞に属するが、老舗百貨店MのO社長が「なぜだ!」と叫んだような事態を引き起こさないためにも安定多数を確保しておく必要がある。勿論O社長のような不法行為をするためにではないことは言うまでもないが、経営方針の対立から争いになることは日常茶飯事だということを肝に銘じておいてほしい。

事業承継に失敗しない工夫

 後継者育成のつもりで創業者の子息と何人かの兄弟を会社に入れていることが多くある。そのような場合に相続が発生して、兄弟が平等に株式を持つことで却って混乱を引き起こす原因になっている例を多く見かける。これも上記の議決権のことを考慮に入れずに相続を行ったことが原因になっている。人の心は移ろい易いものだということは決して忘れてはいけない。今は仲のよい兄弟でも置かれた状況が変われば意見が対立することは十分に予測されるではないか。事業承継する後継者の選択と株式の相続はワンセットで、創業者が元気なうちに自らの目でしっかりと見極めて、生前に株式の贈与をするか、遺言書を作成するなど万全の対策が要求される。その際に信頼できる第三者の意見を聴くことが何よりも重要な条件だ。それは、親子の間柄では往々にして欲目があり正確な判断ができていないことが多いからである。
 また、近年中小企業において同族関係者以外の社員から後継者を抜擢することも出始めている。社員を抜擢する場合には親子の場合と違い情が絡むことは少なく、経営理念や創業者から引き継がれた技術などが後継者選択の基準となっているようだが、その場合でも創業者が信頼できる第三者の意見を聴いて適切に持株の移動をすることをお勧めしたい。

新しい資本市場

 前回ご紹介した長野県高森町の少人数私募債のケースのように資金の調達先が徐々に拡大してくると、そこには様々な手法が可能になってくることはおわかりいただけたと思う。  同様に資金の調達先を同族株主、社員、縁故者(得意先・仕入先・顧客)、一般投資家と徐々に株主になる人々の範囲が拡大してくると、中小企業も株式の譲渡制限がある「閉鎖会社」から株式の公開をする「公開会社」への道を歩むことになる。従来は株式公開とというとハードルが高く中小企業には縁のないものと思われていたがグリーンシート市場の開設で中小企業の株式公開も夢ではなくなってきた。



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税理士 細野知久
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