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中小企業金融問題の第一人者宮本孝氏の直言と経営指南
宮本孝の金融教室
宮本孝(みやもと たかし) 1946年福岡県生まれ。九州大学法学部卒。
(株)日本ビジネスクラブ代表取締役 TEL03-5473-7088
マスコミから”中小企業の駆け込み寺”と称され、関与企業は400社以上。著書多数。
■経営者のための金融教室6■ 戦略経営者 2002年11月号 掲載分
宮本孝(日本ビジネスクラブ代表取締役 中小企業診断士)
Q&A 銀行の理不尽な要請を跳ね返す 実践的対処法
金融行政の圧力が一層増すなか、銀行は金利引き上げだけにとどまらず、あの手この手で貸出先に揺さぶりをかけている。中小企業はこれにどう対処すればいいのだろうか。金融問題のスペシャリストである宮本孝氏が、代表的な交渉事例とその対処法について解説する。
不良債権処理の加速が宣言され銀行の健全化が叫ばれる中で、最近銀行対債務者企業の攻防が激化しています。
本来銀行と企業はパートナーとして共存共栄を図るべきものですが、残念ながら金融政策の圧力の下で生き残りをかける銀行はとりわけ中小企業にシワ寄せを求め理不尽とも言える要求をしているのが現実です。その主なものを取り上げ、対応策について述べていきます。
3つの基本戦略
まず、交渉にあたる際の基本的な対処方針を三点示します。
1. 銀行対債務者はビジネスの上では対等であるとの認識に立つこと
中小企業は「銀行に貸してもらっている」との認識が強すぎて弱者意識を持ってしまいがちです。逆にバブル期には銀行が「借りていただく」との認識に転換し貸出競争を行いました。これはどちらも間違いです。銀行は"貸せる"と判断しお金を貸し、債務者は確実に返済をする義務を負い、その対価として利息を払うのです。
金利を払えば、"お客様"、払わなければ"不良債務者"とのクールな立場が原則であり、その他の通常の取引と同様"商人"同士の人間関係、信頼関係が伴なうものなのだと認識を改めるべきです。
2. 敵を知り己を知ること
銀行を敵視せよとは言いません。しかし、およそ交渉事は相手の言い分を理解し、力を量った上で自分の力との比較を行い戦術を練り自己主張をすることが鉄則なのです。
まずは銀行の論拠を理解すること。少しでも不明瞭な点があれば徹底的に相手に確認することが必要です。
3. 交渉は算数で行うこと
経営者は数値感覚を持たなければなりません。「一生懸命ガンバリます」だけでは交渉になりません。経営計画書を示して「売上、利益はこうなります」「コスト削減効果はいくらです」と客観的、具体的に語らなければ説得力は無いのです。
以上の三点を基本方針として最近多発している具体的な事例について交渉方法を説明していきます。
Q1 銀行から金利の引き上げを求められたがどのように対処すればいいか。
A 基本的には断るべきです。銀行と債務者の貸出取引は「銀行取引約定書」という基本約定所に基づいて行われます。この約定では金利について、"金融情勢の変化その他相当の事由がある場合には、一般に行われる程度のものに変更される"旨記述されています。日銀の公定歩合の変動等で金利水準が見直されることを想定したものです。ご承知の通りゼロ金利が続いている中での金利引き上げに論拠はありません。
この要請の本質は、銀行が金融政策により債務者企業の厳格な査定見直しとこれに伴う引当の強化を求められているため、これを債務者に対し負担を付け替えようとするものであるといえます。あくまでも貸し手側の問題であるわけです。
しかし、新たな借入れを行う場合や、手形割引を持ち込む場合は、従来より高い金利を求められ拒否することで借入れや割引が不可能になる恐れがあります。
Q2 これまで極度(貸出枠)一億円の当座貸越契約があったが証書貸付への変更を求められた。
A 従来通り継続を求め交渉すべきです。しかし当座貸越契約の期限満了を理由に変更を銀行が強硬に主張すれば従わざるを得ません。これは貸しハガシの兆候と考えられますから、全借入について"リスケジュール(返済計画の見直し)"を視野に入れて消極的な取引方針に転換し依存度を薄くしていく必要があるでしょう。当面証貸に変更するのであれば毎月の約定返済額は収益返済が可能な範囲で極力少額に抑えるよう交渉しなければなりません。
また証書貸付を手形貸付に変更を求められるケースも多発しています。これは銀行が手形期日に一括返済を求められるように準備をするもので大変危険な貸しハガシの典型です。証書貸付の期限到来時でない限り拒否することが必要です。この銀行とは決別を覚悟してリスケジュールにとりかからなければなりません。
Q3 これまで年間5,000万円程度の借入返済を行い、返済実績の範囲で年に一〜二回の借換えを行ってきた。今回2,000万円の借換えを求めたが担保不足を理由に断られた。
A 貸し渋りの典型です。もはやこの銀行に依存しつづけることは危険です。自己資金(定期預金の取り崩しや個人の資金)で凌いだ上で直ちにリスケジュールを検討しなければ資金繰り破綻に陥ります。
"貸し渋りには返し渋り"で対応するしか無いのです。
経営計画を示した上で今後は借入を一切しない収益返済への変更を宣言しなければなりません。
Q4 担保不足を理由に義父の自宅を追加担保に求められたが・・・。
A 論外であり断固として拒否してください。「所有者の理解が得られない」とはっきり告げてください。第三者の保証人追加を求められた場合も同様です。純粋に借り増しをする場合に必要最低限で第三者の協力を求める事が無いとは言いません。しかし担保や保証人を銀行の保全措置の強化のためだけで協力をしても銀行の支援が強くなるわけではありません。それどころか最近は担保が十分である方が切り捨てられ易いのが現実です。
"追加担保に応じなければ融資の継続ができない"と脅かされても腹をくくって対処し、"それならばリスケジュールだ"と決断するのです。この銀行に追加担保を提供して、仮にその時だけ僅かな融資が受けられたとしても以降スムーズな取引関係は期待できません。必ずどこかで引導を渡されます。それならば担保や保証人が活かせる国民生活金融公庫や中小金融公庫等を利用する方がはるかに得策です。
Q5 当社販売先に対する売掛債権について債権譲渡の書類を提出するよう求められた。本部からの要請で担保不足に対する当社の協力姿勢を示すものだとのこと。書類は預かるだけで行使は絶対しないと銀行はいうが・・・。
A 絶対に応じてはいけません。「同様のケースでその後銀行の方針が変わり、書類が取引先に送付され倒産した事例を知っています。書類を提出すれば事情の如何を問わずそれが行使されても債務者は泣き言は言えないのが当然です。この書類を提出することは事業を放棄することと同じだと考えます」と、このようにはっきり主張してください。
かつての銀行取引ではこの事例は大変稀なものでした。せいぜい一部のノンバンクの専売特許的なもので、銀行はこれを求めるのにためらいがありました。しかし不良債権の最終処理の動きが具体的になるにつれ頻発しています。経営者にとって自社の取引先との信頼関係はお金よりも大切なものです。不渡りを出すよりも致命傷になるとの認識が必要です。
財務管理徹底で理論武装を
銀行との交渉現場で代表的なものについての対処法を述べてきました。この他にもさまざまな事例があります。また幸いにこれまでは平穏な取引でこのような事例を体験しないで済んだ企業もあるかと思います。しかしこれからさらに金融は激変します。どのような局面に際しても相手の論拠を上っ面だけではなく徹底的に確認し、その結果自分にどんな事態が訪れるのかを十分検討した上で対応しなければ禍根を残すことになります。独力で判断できなければ信頼できる専門家に確認をした上で対応してください。
最初に述べた通り、銀行との交渉では、経営数値を明確にしてしっかり自己表現をすることが前提となります。日頃から適切な経営処理と厳格な財務管理の徹底で理論武装し、本来アマチュアである銀行員をデータで説得するくらいの気持ちをもち交渉にのぞむことが肝要なのです。
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